2016年2月25日木曜日

「けい船」という仕事 前編 (2015/12/02)

船舶けい離立会い

港に関わる仕事で「けい離立会い」というものがある。今回は聞きなれないこの仕事について、みなと振興部海務課けい船係の大森康平さんと保毛津林太郎さんに教えていただいた。


「けい離船作業」とはなにか? 


 まず、けい離立会いの「けい離」とは何かから解き明かしていく。 
 船は港に入る時、巨大なタンカー船やコンテナ船、またどんなに小さな漁船であっても、岸壁に船をつける作業が必要となる。


「繋」=船を岸壁に繋ぎ止める
 大きな船の場合、船が岸壁に近づくと船首と 船尾から数本のロープを海面まで降ろす。繋船ボート(別名、綱取りボート)はそのロープを受け取り岸壁にいる陸上作業員に渡す。陸上作業員はそれを受け取りロープを掛けるビット(岸壁上の設備で突起鋳物)に掛ける。船はそれを確認した上で、垂れたロープをウインチ(ロープを巻き取る機械)で張り詰めて固定させる。以上で船はしっかり岸壁に係留される。

「離」=船を岸壁から離す
  しっかりと岸壁に張り詰めたロープを船上から緩める。そして船の合図によって岸壁の作業員がビットから手動でロープを放す。船はそれを巻き取る。小さい船は自然と岸壁から離れて行くが、大きな船はタグボートの力を借りて岸壁から離れる。

 以上の、船を岸壁に「繋ぐ」ことと「離す」に関わる一連の作業は「けい(繋)離船作業」と呼ばれる。


「けい離立会い」 

 さて本題の「けい離立会い」である。この仕事は「けい離船作業」に立ち会うということは容易に想像できるが、具体的にはどんなことをするのだろう。レストラン船、フェリー、コンテナ船などの船を係留する際、「けい離立会い」の仕事はこのようなものだ。 

1.荷役の形態、本船のスケジュール、隣接する岸壁の係留状況等を考慮し、事前に係留位置を決める。

2.船が岸壁に着岸する目印となるN旗(市松模様の旗)を置く。船はそれをめがけて岸壁へじょじょに近づいてくる。
 
3.岸壁に船が近づくと、けい離立会い人は指定した位置に係留するように船に対して指示を行う。

 
N旗を目印に岸壁に近づいてくる船

 船は自動車とは異なり、ブレーキもなく、潮流や風の影響を受けやすいため、微調整が非常に難しい。にもかかわらず、例えば、船と陸をつなぐ渡橋(船から陸に降りるための橋)と船の位置を合わせるために、全長300mもの大きな船であっても約1mという単位で調整を行う必要がある場合もあり、作業時間は短ければ30分ほど、長ければ何時間もかかるという大変な仕事だ。

 旅客機が普及した現代、人が海外に行くには飛行機が一般的だ。しかし、物は輸出入を合わせた日本の貿易量は重量では年間9億トン以上で、このうち飛行機が運んでいるのは0.3%、残りの99.7%は船が運んでいる。
 わたしたちの快適な暮らしは、今回取り上げた「けい離立会い人」を初めとした海運に携わるいろいろなプロフェッショナルな人々の絶妙な連携の上に成り立っているということを今回の取材で学んだ。



取材協力
神戸市役所 みなと総局みなと振興部海務課けい船係 
参考資料
日本繋離船協会HP
http://www.keirisen.com/kyokai.html


取材:道岡龍